司法書士は年齢が高くなってからも独立・開業に挑戦できる資格です。独立・開業についてはさまざまな魅力があるものの、経営環境は厳しく、開業して成功するためにはいろいろなハードルを乗り越える必要があります。司法書士の魅力と厳しさ、開業に成功するための秘訣をご紹介します。
1 開業司法書士はどんな仕事
司法書士はいろいろな面からみて開業しやすい資格です。開業したあとではすべての責任を自分で負うことになりますが、自分の好きなスタイルで仕事を進めることができます。近年、開業司法書士を取り巻く環境は厳しさを増しています。
1 開業司法書士の魅力
開業司法書士にはさまざまな魅力があります。そのうち主なものをご紹介します。
・開業しやすい
司法書士は独立・開業しやすい資格です。司法書士事務所を開設するのには専用の機械や備品は要らず、狭い面積でも問題ありません。飲食店であれば、広い店舗、調理器具、食器、テーブル、イスなどに対する多額の先行投資が必要ですが、司法書士はほとんど一般的な事務機器だけで開業できます。資格取得のための勉強が実務に直結するので、資格取得後すぐに開業することも可能です。
・年齢が高めでも開業できる
司法書士は年齢が高くても開業できます。30代後半で試験に合格し、40歳前後で開業するのが平均的な開業のイメージです。会社員として働いてきた人が、数年間勉強して試験に合格し、その後数年間、司法書士としての勤務経験を積んだあとに、独立・開業しています。
・やりたいことができる
経営者は自由です。経営を成り立たせている限り、自分が好きなスタイルで仕事ができます。ワークライフバランスを実現するために仕事をセーブして、自然豊かな地方で充実した生活をすること、子供の成長に積極的に関わることなども、自分次第で可能となります。
・お客様に直接感謝される
独立した司法書士の仕事は、一部分の作業を担当することではなく、お客様と直接向き合い、お客様の利益を実現することです。仕事がうまくいけば、仕事に対する達成感とともに、お客様に直接感謝される喜びも味わうことができます。
2 開業司法書士の厳しさ
開業司法書士の魅力はたくさんありますが、それも経営が成り立ってのことです。開業司法書士を取り巻く経営環境は厳しさを増しています。
・競争激化
司法書士は年々増加しています。近年の傾向としては、1年に約900人の新規登録者が生まれる一方で、約600人が登録を取り消しています。登録取り消し者のうち約500人は廃業していると見られます。司法書士が増加する一方で、これまでのところ司法書士の主な仕事であった不動産登記の件数は、最近の10年ほどで約30%減りました。これからの司法書士には、不動産登記以外のさまざまな業務に進出することが求められています。
・年収はピンからキリまで
司法書士として独立した後には、どれだけ仕事を取れるかがもっとも重要です。仕事を受注する力は個人差、立地、運などの要素が大きいので、年収はピンからキリまでです。独立した司法書士の平均年収は600万円前後と言われますが、年収1,000万円以上の司法書士が1割以上いる一方で、年収200万円未満の司法書士も2割以上を占めています。
2 開業司法書士として成功するために
開業司法書士は、魅力ある職業ですが、経営環境は厳しさを増しています。厳しい環境の中で独立に成功するためのポイントをご紹介します。独立・開業するうえで、実務能力は当然備えているべき大前提です。実務能力に不安を感じるのであれば、しばらくの期間、司法書士事務所に勤めて能力を高めることをおすすめします。司法書士として勤務している間、あるいは司法書士試験の勉強中に、将来独立することを念頭に、成功のポイントについて自分の考えを明確にしたり、スキルを磨いたりして準備しましょう。
1 経営理念
独立・開業すれば、経営者として大きな自由を手にします。自分以外、だれも行動を制限したり、ルールを押し付けたりしません。なんの理念もなしに経営していれば、経営が行き当たりばったりになり、方向性を見失う可能性が高まります。どのような事務所を経営したいのか、そのイメージを明らかにして、経営理念や事務所の青写真を明確にします。
2 開業場所を見極める
司法書士事務所の経営環境は、都市部と地方で大きな違いがあります。都市部は案件が多いけれど、競争相手も多い環境です。都市部で求められることは、得意分野を作ってアピールする差別化です。都市部では大規模司法書士法人が台頭しているために、薄利多売による価格競争で勝てる見込みはほとんどありません。地方は案件が少ないけれど競争相手も少ない環境です。地方では総合的になんでもできることと、広く人脈を築いて仕事を回しあうネットワークに入り込むことが課題です。
3 ネットワーキング
どのような業種であれ、経営者になればネットワークや人脈はとくに重要になります。司法書士の場合、ネットワークはほかの業種くらべてもさらに重要です。司法書士の主な仕事は不動産登記などの書類を正確に作成することですが、そうした仕事はエンドユーザーから直接依頼されるよりも、家屋の売買などの大きな仕事の一部として不動産業者などの関連業者から依頼される場合が多いためです。司法書士は、関連業種のネットワークを通じて仕事を獲得することが多い業種です。
丁寧な仕事で顧客からの口コミ紹介を得ること、士業や業界など、さまざまな異業種交流会に出席して関連士業や業者とつながりをつくること、地域の無料セミナーの講師を勤めること、地域の催しに参加することなどにより、地域の人々やキーパーソンとのつながりを作ることに努めましょう。
同業者とのネットワーキングも重要です。研修の同期や先輩と知り合っておけば、事務所を経営していて疑問が生じたときに相談相手になってもらうえます。
ネットワーキングでは、相手から利益をもらうだけではなく、自分からも相手に利益を提供することで、Win-Winの関係を築くことが重要です。相手が困っているときには積極的に助言をしていきましょう。
4 マーケティング
事務所を構える地域をよく知り、地域に合ったサービスを提供し、ブランドイメージを作ってアピールすることをマーケティングと呼びます。地域に合ったブランドイメージを押し出すことで、多くの人に事務所の存在を印象付けることができます。
開業予定地にいる司法書士、その業務内容、地域でニーズの高い業務なども事前に調査しておくと、開業するとき集客しやすくなります。
5 営業スキル
開業当初はあまり仕事がないので、営業に時間を使うことが多くなるでしょう。すでに紹介したネットワーキングに加えて、銀行、不動産業者、関連士業、地域の会社や商店を訪問する飛び込み営業も有効です。相続など一般顧客から仕事を取れる分野では、ポスティングや折込チラシも有効です。
ホームページやブログも営業手段になりえます、無料のホームページ作成ツールを使えば、初心者でも見栄えの良いホームページを作ることができます。ホームページの作成を外注すると数万円~数十万円かかります。時間があるときにホームページを作成するスキルを勉強しておけば、外注にかかる出費を節約できます。
6 業務システム
開業当初はひとりで事務所をまわすことがほとんででしょう。案件が少ないうちはシステムなしでも仕事がまわるかもしれませんが、業務が増えることを想定して開業時よりシステム導入はおすすめします。ひとりだと起こるかもしれないミスを防ぎやすくなるばかりでなく、スピードも正確性も高まり質のいい仕事を提供することで、信頼を得られやすくなります。
データや書類の管理もシステムがあると便利です。
3 勤務司法書士という選択
司法書士の資格を取得したからと言って、独立しなければならないわけではありません。今日では、勤務司法書士を続けることも司法書士の進路として有力な選択肢になりつつあります。勤務司法書士の主な勤め先は司法書士法人や、司法書士事務所ですが、その他に弁護士、税理士、土地家屋調査士などと共同してワンストップサービスを展開する総合事務所も有力です。司法書士法人や総合事務所の環境の中で、高度な仕事を担当しつつ、組織の中で少しずつ収入を上げていくことができます。勤務司法書士は売り手市場です。都市部でバリバリ働けば年収400万円は固いでしょう。
4 まとめ
以上、開業司法書士の魅力と現状、開業司法書士として成功するためのポイントをご紹介しました。開業して成功するためには、仕事を受注することが必要であり、仕事を受注するためには豊富な人脈を築くことがとくに重要です。実務能力を高める一方で、多くの人々とつながりを作ることで、将来の開業に備えましょう。