司法書士として、独立開業を目指す人は少なくないでしょう。ここでは、司法書士が独立開業する際に役立つ費用の情報をご紹介します。
1 独立開業する前にやっておくべきこと
ここでは、司法書士が独立開業前にやっておくべきことを5つご紹介します。中でも、明確な理念を持つことは、事務所の方向性を決めるため、時間をかけてじっくり検討しましょう。
1 経験を積んでおく
独立開業する前に、実務経験で一通りの業務のノウハウを習得しておきましょう。全般業務を行っている個人事務所で下積みする場合、2年ほどの現場業務で独立に必要なノウハウを最低限身につけられます。分業制になっている大手事務所では、3~5年ほどの下積み期間を設けることが推奨されます。一方で、重要なのは、本人のモチベーションであるため、下積み期間が長ければ良いというわけではありません。
2 自分の理想の開業スタイルを考えておく
主な開業スタイルには、「テナント開業」「戸建て開業」「継承開業」等があります。それぞれの違いを吟味し、自身に合った開業スタイルを事前に考えておきましょう。
2-1 「テナント開業」
イニシャルコストを抑えられ、駅前や繁華街等の人通りの多い場所で開業できます。事業を拡大する場合、借りたスペース以上に広くできないところが難点です。
2-2 「戸建て開業」
自宅のため通勤が不要な点に加えて、比較的広いスペースの確保と自由な間取りが実現します。自宅の一部をオフィスとして活用できるので、別途オフィスを賃貸する場合よりもコストを抑えられます。
2-3 「継承開業」
すでに司法書士事務所として経営している事務所を譲り受けるスタイルです。これまでの実績によって開業後の業績が予測しやすく、金融機関からの資金調達も比較的容易に行えるでしょう。ただし、以前に悪評が立ち経営不振に陥った事務所の可能性もあるため、事前に情報収集を行う必要があります。
3 どんな司法書士事務所にしたいのかしっかりとしたビジョンを持つ
自分の事務所を持つにあたって、事務所のイメージをふくらませ、ビジョンを明確にしましょう。そのためには、経営理念や専業理念等の「理念」を最初に考える必要があります。この理念は、公共的な意義を持ち、社会に貢献できるものが推奨されています。例えば、「お客様だけではなく、事務所に関わる全ての人と真摯に向き合う」等です。確固たる理念を持つことによって、事務所の方向性が定まり、健全な運営を維持することができます。
4 事務所を出すエリアの情報収集を行う
事務所をどのエリアに構えるかは、成功を左右する重要な選択です。司法書士の需要は、会社の設立登記や不動産の数が豊富な首都圏に集中しています。従って、事務所の開業は、人の出入りが多く、頻繁に街並みが変化するエリアが推奨されています。また、「経営を脅かす同業者がいないか」「最寄りの司法書士事務所はどの専門分野に特化しているか(差別化を図るため)」等を事前に調査しましょう。
5 顧客獲得のために営業力を磨く
司法書士として成功するためには、優れた営業力が必須です。新規の顧客開拓のためには、SNSやWEB広告の積極的な活用、無料相談会の実施等が有効でしょう。いざ、実際に顧客と話す際は、自身の事務所の得意分野や強み、仕事に真摯に取り組む姿勢をアピールしましょう。既存客には、話しやすい雰囲気を作りながらも丁寧な対応を維持し続けることが重要です。既存客だかといって、案件を後回しにすることや、対応に手を抜くことがあってはいけません。一見、一般的な営業力と変わらないように思えますが、司法書士の業務は「会話」がメインです。そのため、誠実さやトークスキルが重要なポイントとなります。
2 独立開業したら儲かるのか?
司法書士として独立開業して得られる利益には、個人差があります。努力や能力次第で増やすことも可能ですが、開業当初は十分な利益は見込めません。ここでは、独立開業して、ある程度実績を積んだ司法書士の平均年収と、開業当初の平均年収についてご紹介します。
1 独立開業の平均年収
独立開業した司法書士の平均年収は600万円程度とみられます。事務所を構えることによって莫大な維持費や税金がかかることが原因です。
2 開業当初からは十分な利益が見込めないことを理解しておく
独立した司法書士の中でも、年収が1,000万円以上に達するケースはあります。しかし、開業当初はまだ実績や信頼を得ていないため、十分な利益はまず見込めないことを念頭に置きましょう。顧客を獲得して実績を重ねるうちに、確かな利益の増幅を期待できるため、モチベーションを維持し、努力を続けましょう。
3 開業するための費用はいくらかかる?
司法書士の開業は、最低50万円程あれば可能であるといわれています。しかし、事務所の規模によって必要な費用は異なるため、自身が理想とする事務所のスタイルに合わせて、念入りに算出しておきましょう。
1 登録費用
開業に際して、司法書士として登録する必要があります。日本司法書士会連合会に備える司法書士名簿に登録する際に、手数料として2万5千~5万円がかかります。登録費用は都道府県によって異なるため、事前に確認しましょう。
2 事務所費用
事務所を置く場合、新しいOA機器が50万円程度、オフィス代が100~200万円程度必要です。OA機器は、レンタルやリースもあるため、費用を抑えることができます。よって、200万円以内と想定しておきましょう。一方、自宅を事務所とした場合、オフィス代は必要なく、OA機器も既存のものが使えるため、資金を最小限に抑えることができます。
3 最低限準備しておきたいもの
独立した司法書士として活動する上で、最低限準備しておきたいものは、オフィス用品(デスク・イス・応接セット等)・パソコン・プリンター・固定電話・名刺・文房具類です。司法書士は、膨大な情報を扱うため、データのバックアップ対策を行うソフトも必ず準備しましょう。
4 通信費
通信費は、電話やインターネット等で1ヵ月1万円程度かかると見込みましょう。
5 ホームページの作成
ホームページの作成は、自分で作るか、プロに依頼するかの2択です。プロに依頼する場合は、30~50万円を超える場合もあります。また、ホームページを公開するに際して、「ドメイン」や「サーバー」が必要です。これは、年間6千~1万円が目安です。
6 開業後の資金
開業後の資金は、「当面の生活費」と「運転資金」の分だけ必要になります。とはいえ、経営状態によって、途中で足りなくなってしまうこともあるため、予算以上を見積もっておきましょう。
6-1 当面の生活費
開業当初は、業務もそこまで多くないため、仕事が軌道に乗るまでの数ヶ月~1年分の生活費を用意してから独立することが推奨されています。
6-2 運転資金
運転資金には、司法書士会費や賠償責任保険の保険料、研修費用に加えて、交通費、光熱費、そして、事務所を借りていれば賃料がかかります。また、司法書士は人脈づくりが不可欠であるため、交際費や営業活動の経費も必要となります。
7 業務支援システム、ソフト
開業するとすべての仕事を自分でこなさなければなりません。信用をつくること大切なので、仕事はミスなく正確に滞りなく進めることが重要です。勤務時代にシステムやソフトを利用していた経験がある場合は特に感じることでしょう。開業してすぐは案件が少ないからいらないというよりは、今の仕事を確実にすることが信用をつくる、将来にそなえると考えると、開業時に導入することも視野に入れましょう。
司法書士は他の業種よりも安く開業できる
司法書士の独立開業は、医療業や飲食業等の他業種と比較して開業資金が少なくて済むといわれています。その大きな理由として、「人件費がかからない」「自宅でも開業できる」「業務に必要な機器(電話・プリンター・PC)が少なくて済む」等があげられます。
4 開業の準備について
開業の準備をする際は、事前調査やコネクションづくり等、想像以上に多くのことをこなさなければいけません。スケジュールをしっかり立て、思い描いた事務所を構えましょう。また、開業後に必要な手続きもあるため、忘れないように注意が必要です。
1 開業までの具体的なスケジュールを立てる
開業する半年ほど前から具体的なスケジュールを立て、少しずつ準備を進めましょう。まずは、独立した先輩の話を聞いて、自身にとっての最優先事項を明確にする必要があります。
2 事業計画・開業資金計画をしっかり立てる
開業にあたって、事業計画・開業資金計画をしっかり立てましょう。事業計画では、事業の動機・内容・目標を人に説明できる程度に固める必要があります。また、開業資金計画では、「金融機関からの融資」と「自己資金」のどちらが自身の事務所に合うか検討しましょう。
4 事務所探し
事務所を構えるのにふさわしい場所を探しましょう。地元密着型を目指すなら「自宅近辺」、有利な営業を最優先するなら、銀行や不動産業が集中する「駅前や繁華街」、競争を避けたいのであれば「司法書士が少ない地域」が推奨されます。
5 開業後の手続き
事務所の開業が完了したら、節税のための手続きをしましょう。事業などの業務に用いられる資産を必要経費として配分していく「所得税の減価償却資産の償却法の届出書」、個人事業主が所得税を自身で計算して税務庁に申告する「青色申告(所得税の青色申告承認申請書)」がこれに当たります。また、家族と事業を行う場合は、家族に支払う給与を全額経費にできるため、「青色専従者給与に関する届出書」の手続きを行いましょう。
5 まとめ
いかがでしたか。司法書士として独立開業する際に必要な費用は、オフィス代がかからなければ最低50万円程度と、意外と低予算であることが伝わったでしょうか。開業後に事業を拡大することも可能なため、まずはコンパクトな事務所から始めてもいいかもしれませんね。