司法書士として開業することは比較的簡単ですが、高い収入を確保することは容易ではありません。司法書士が開業に失敗する理由を事前に知っておくことで、予め対策がとれるでしょう。
1 司法書士は短期間で独立開業が目指せる
司法書士が開業しやすい資格であることは事実です。比較的少ない資金でも司法書士事務所を開くことができます。司法書士事務所を開設するまでの流れを解説します。
1 必要な下積み期間
司法書士は、開業を目指せる職業です。資格取得後2年以内の開業が約3割、3~5年の開業が約3割です。5年以内の下積みで開業できると考えてよいでしょう。
2 晴れて開業できた場合の平均年収
開業している司法書士の年収のデータだけを集めた統計はありませんが、おおよそ600万円ほどだと言われています。開業している以上、経営手腕による年収のバラツキは大きく、年収1000万円以上の司法書士がいる一方で、200万円に満たない司法書士もいます。
2 開業までにやっておくこと
事務所を開業して成功するために必要なことは、職務に関する知識だけではありません。経営者としての知識、ビジョン、人的ネットワークが必要です。
1 独立開業のスタイル、ビジョン・イメージを描く
都市部で開業する場合、競合する司法書士事務所の中で差別化する必要があります。他の事務所と比較して選んでもらうための、専門性や得意分野が必要です。地方で開業する場合は、どのような案件でも手広く扱うことが求められます。
また、拡大志向なのか、継続志向なのか、社会貢献志向なのかなどの経営方針を定めることで開業後の経営判断に軸ができます。経営方針を定めることで開業後に行うさまざまな判断に整合性が生まれます。
開業のスタイルや経営方針が決まったら、それらの実現を目指して事務所の場所や内装を選択します。
2 できるだけ多くのネットワークを作る
開業後に経営を軌道に乗せるためには、新規顧客を継続的に確保する仕組みが必要です。新規顧客の開拓にもっとも有効なのは、既存顧客からの紹介です。独立前にできるだけ多くの既存顧客をつかみましょう。同業者や関連業者とのネットワークも重要です。そうしたネットワークにより有力な情報を取得したり、仕事を融通しあったりすることができます。
3 初期費用を抑えるためにブログやSEO対策に関する知識を身につける
事務所のWebサイトは必須です。SEO対策を意識したWebサイトやブログによりインターネットを通じて新規顧客を獲得できるようになります。こうした作業を外注すると数十万円かかります。自分でできるようになっておけば、開業後の初期費用を抑えることができます。
3 独立開業が失敗してしまう理由とは?
独立開業に失敗する理由はさまざまです。新規顧客を獲得できなければ経営は先細りにならざるを得ません。
1 開業した司法書士の廃業率は?
はっきりとした数字はありませんが、さまざまな業種の個人事業主の中で、司法書士の廃業率は低いと言われています。特別な設備を必要としないので、司法書士事務所のランニングコストが低いことが廃業率を抑えています。
廃業率は低いものの、令和元年分の事務所の確定申告決算書の金額で見ると売上金額が200万円未満の事務所がおよそ16%あります。廃業しないとはいっても、経営が安定するかどうかはその方の手腕次第と言えるでしょう。
2 資金不足によるもの
開業直後は意外と出費がかさむものです。経営が軌道に乗るまでの生活資金が不十分だったり、売掛金が回収されるまでの時間差を考慮していなかったりすれば、資金不足により事務所がデフォルトに追い込まれることもありえます。
3 営業スキル、人脈が足りていなかった
開業後に新規顧客を継続的に獲得するためには、営業スキルや人脈が必要です。営業スキルにせよ人脈にせよ開業後に短期間で用意できるものではありません。準備期間中にできるだけのことをしておきましょう。
4 業務過多になってしまう
独立開業後しばらくは一人で事務所を運営することになるでしょう。司法書士として仕事、営業、集客、雑務をすべて一人でこなすことは時間的にも体力的にも大きな負担です。忙しすぎて身体を壊し事業を続けられなくなることがあります。
5 外的要因によるもの
法律の改正や強力な同業者の出現などの外部環境の変化により経営が難しくなることがあります。手広い分野を取り扱うことはこうしたショックの緩和に役立ちます。
6 マーケティング不足によるもの
開業する地域のニーズにあったサービスを提供する必要があります。事前のマーケティングが不十分でニーズに合わない事務所を開設してしまい顧客獲得がうまくいかなくなることがあります。
4 廃業にならないためにはどうすればよいか
健全でバランスが取れた経営を行うことが事業を継続する秘訣です。
1 事業計画を練る
ただただ日々の作業を行うだけではどこかに穴が生じて、いつの間にか経営が傾いてしまうかもしれません。事業の全体を俯瞰し収支のバランスについて計画を立てましょう。
2 経営管理をしっかり行う
日報や経理など日々の業務を記録して、自社の経営状態をリアルタイムで把握しましょう。物品管理のルール化なども経営の効率化に役立ちます。
3 失敗を恐れず行動する
経営に失敗はつきものです。たくさんのことを試して、失敗したことは繰り返さず、成功したことは続ける。経営とはそうした試行錯誤の繰り返しです。致命的な失敗は避けなければなりませんが、小さな失敗はむしろ成功の糧としていきましょう。
4 ある程度の投資をする
事業計画を立てると、何に投資するべきかが見えてきます。一定レベルであれば、躊躇なく投資しましょう。経営とは出費を切り詰めることではなく、収支を適切に配分することです。経営は、家計を維持することとは違います。出費を抑えることではなく、事業計画を達成することに注力しましょう。
5 先輩たちは軌道に乗せるためにどんな工夫を行ったか
経営していればたくさんの問題に遭遇します。そうしたとき、先輩たちの事例は非常に役に立ちます。インターネット、セミナー、個人的な相談などで先輩たちの知恵を借りましょう。
5 もし廃業してしまった場合の再就職先は?
残念ながら廃業に追い込まれた場合の再就職先を紹介します。
1 独立開業に失敗した司法書士を雇う事務所はほぼない
一度独立した司法書士を雇用したいと考える司法書士事務所は少ないのが実情です。廃業した司法書士はプライドや、すでに確立した仕事のやり方が邪魔になって、使いづらいと考えられています。
2 転職のコツ
司法書士は細かい書類を正確に作成する仕事ならばお手の物です。そうした技能を生かす分野への転職がオススメです。企業への法務部や総部といった法律関連業務への転職が考えられます。法令遵守(コンプライアンス)が叫ばれている今、法務部門がある大企業ばかりでなく、中小企業でも生かされる可能性があります。
3 バックオフィス業務に向いている
司法書士の仕事は、会社経営などで必要となる書類の作成をサポートすることでした。バックオフィスの仕事は社内でそうしたサポートを提供することです。バックオフィスであれば司法書士のスキルを活かすことができます。
4 法律の知識を活かして不動産業界へ
不動産登記は司法書士の仕事のうち大きな部分を占めます。不動産会社に転職すれば、会社員として不動産登記などに関する専門的な知識や資格を活用することができます。
6 まとめ
以上、司法書士の開業に失敗する要因と失敗した時の転職先について解説しました。継続的に集客できなければ事業は失敗してしまいます。一方で、小さな失敗は今後の成功への近道かもしれません。失敗を乗り越える際の参考に、本稿を参考にしてみてください。