司法書士事務所を開業するということは、1人の経営者になることを意味します。司法書士事務所の経営は大きく3つの仕事に分けて考えることができます。第1は案件を受注すること、第2は受注した案件を処理すること、そして第3は経営の方向性を保ち、収入と支出の帳尻を合わせ、事務所を経営・管理することです。
営業活動の意味
司法書士資格を取得した段階で、一定レベルの実務能力、すなわち案件処理能力があると言えます。実務能力は事務所経営の基礎となる能力なので、司法書士事務所に数年間勤務することで、さらに能力を確実なものにしておくことが望ましいでしょう。しかし、実務能力だけでは経営は成り立ちません、事務所を維持するためには、案件を受注することと、事務所を経営・管理していくことも欠かせないからです。特に重要なのは、案件を受注することです。そして案件を受注するために行う活動が営業活動です。司法書士資格を持っていることと、案件を受注できることとは別の事柄です。
案件を受注していくためには
それではどうしたら案件を受注できるのでしょうか。
案件は、司法書士としての仕事をしてもらいたい人や会社からの依頼を通じてやってきます。開業して事務所があるだけでは、司法書士の仕事を依頼したい人々は事務所があることを知らないでしょう。また、仮にそこに司法書士事務所があることを知っていたとしても、それだけで仕事を依頼したいとは思わないでしょう。
現在または将来に案件を依頼する可能性がある人や会社を潜在顧客と呼びます。司法書士の営業の仕事は、潜在顧客を見つけ、アプローチして自分を知ってもらい、実際に案件を受注することです。
潜在顧客の見つけ方
それでは潜在顧客、つまり仕事を依頼する可能性のある顧客をどのようにして見つければよいのでしょうか?
司法書士の業務にはさまざまな種類があり、それぞれの業務ごとに潜在顧客は異なります。司法書士の業務は、不動産登記、商業登記、成年後見、相続・遺言、債務整理、裁判所で使う書類の作成、簡易裁判の代表など多岐にわたります。
不動産登記
不動産登記は住宅やマンションの売買に伴って発生することが多い業務です。そうした売買は不動産業者と銀行などの金融業者が取り扱います。したがって不動産登記の潜在顧客は個人顧客よりも不動産業者や銀行などが多くなります。彼らは通常特定の司法書士と取引をしているので、自分が受注するためには丹念な営業を行い、現在取引している司法書士よりメリットがあることをアピールしていく必要があります。あらかじめアピールポイントを作っておかなければ単なる下請けとなり、価格競争に巻き込まれたり相手にされなかったりといった結果になるでしょう。
商業登記
商業登記について考えてみましょう。会社設立にともなって商業登記を行う場合、はじめに税理士やコンサルタントに相談して、そこから司法書士を紹介されることも多いでしょう。このように、司法書士の仕事は大きな仕事の一部分を担当する場合が多いので、関連士業とネットワークを築き、互いに仕事を斡旋しあう関係を作ることが営業活動の目的となります。
成年後見
成年後見以下の場合、介護業者、病院、地域の人々から紹介されたり、直接仕事を依頼されたりすることが多いでしょう。したがって、それぞれの業務に関連する業者と広いネットワークを作ることと、直接仕事を依頼してもらえるように、ニーズごとの個人顧客のイメージを明確にしてアピールしていくことが課題となります。
紹介によって新規顧客を獲得する営業手法
多くの体験談からわかることは、開業後しばらく仕事が少ない状態が続いたあとで、その間にさまざまなネットワークを強化しておけば、さまざまな経路からの紹介によって次第に顧客が増えていくことです。
◇ 丁寧に仕事をすることで顧客を紹介してもらう
最初に押さえておくべきことは、実務でミスがあったり、対応が悪かったりすれば、その顧客はもう一度仕事を依頼せず、新たな顧客も紹介してくれないだろうということです。仕事が正確でミスがないこと、相手の話を親身に聴くことなど、地道な活動が基本となります。
◇ 司法書士の人脈作りー豊富な人脈を作ることで顧客や仕事を融通しあう
ここで司法書士の人脈作りについて触れておきましょう。まずは、同期や先輩といった、同業司法書士の人脈を大切にしましょう。親しい同期や先輩がいれば事務所の経営についていろいろな相談に乗ってもらったり、顧客を紹介してもらったりすることができます。
弁護士、行政書士など関連士業との人脈を作っておけば、受注した仕事のなかで司法書士の資格が必要な部分や、司法書士が得意な部分の仕事を回してもらえるでしょう。このとき自分からも相手に仕事を回すことでWin-Winの関係を築きましょう。
相続や成年後見などの仕事を考えると地域の人々や関連業者との人脈も重要です。銀行や不動産業者から司法書士としての指定を取るのは難しいことですが、一度指定を取れば長期的に経営が安定しま
す。そのために時間をかけて人脈を作りましょう。
まとめ
実務能力と営業力の両輪があって初めて事務所の経営は軌道にのっていきます。業務によって顧客が法人、士業、個人と分かれますが、事務所の方針、戦略、これまでの経験で主力業務を定め、顧客層に向けて営業活動を展開してことが重要です。