司法書士は開業しやすい資格です。多くの司法書士が資格を取得したあと数年以内に開業します。開業しやすいといっても、一定の収入を確保するためには、それなりの心構えや準備が必要です。司法書士を開業するときの心構え、開業する前にしておくべきこと、具体的な開業準備の進め方について解説します。
1 開業する前に知っておきたいこと
司法書士は資格を取得したあと、独立する前にどこかの事務所に数年間勤めるのが一般的です。勤め人から経営者に立場が変わることは大きな変化です。勤め人のときに比べて裁量が大幅に広がりますが、全ての責任を自分でとらなければなりません。開業することでどんなことが変わるのかを見ていきます。
1 開業後は自分の時間がとれない
司法書士事務所に勤めている間、働く時間は労務管理の対象です。9時から18時や18時までの勤務時間が一般的であり、仕事量が多い場合や顧客の要望に応じて残業することになります。開業後は労働者ではなくなるので勤務時間は自分で決めます。仕事をしただけ収入になることから、勤務時間が長くなりがちですが、自分で注意することで、ワークライフバランスも実現できます。
2 ミスが許されない
司法書士は正確な書類を作成することを期待されています。ミスにより損害を与えると賠償を請求されかねません。ミスを防ぐためには複数人でチェックすることも有効ですが、開業時は1人事務所がほとんど。開業した司法書士からのアドバイスでも、開業時にこそ専用システムの導入が特に効果的と言います。システムが入力するべき選択肢を限定したり入力結果を照合してくれたりします。
3 開業するエリアに合った事業戦略が必要
司法書士の仕事に対する需要は、地域によって異なります。特に重要なのは、都市部と地方での需要の違いです。需要が多く、競争の激しい都市部では、専門性を磨いて差別化する戦略が有効です。需要・競争ともに少ない地方では、法律全般についてどんなことでも相談できる地域の法律家の役割が期待されます。
4 必ず成功するという保証はない
司法書士は廃業が少ないと言われます。しかし廃業していないからといって、成功しているとは限りません。年収1000万円以上の開業司法書士も多くいますが、それよりも多い数の開業司法書士の年収が200万円未満です。開業して成功するためには、司法書士としての実務能力のほかに経営手腕が必要です。
5 体力と気力が必要
経営の仕事と司法書士としての実務を両方こなすには体力が必要です。経営の仕事とは営業して仕事を取ってくること、帳簿を管理することも含まれます。勤務とはちがい、経営は整った道を走り続けるようなものではありません。泥沼にはまるようなことがあっても、それを乗り越えていかなくてはなりません。
6 常に精力的に営業活動をしなければならない
開業司法書士は勤務司法書士と違い、自分で仕事を受注しなければなりません。これが営業活動です。毎年一定数の新規顧客を確保できなければ、経営は成り立ちません。既存顧客から顧客を紹介してもらえるように、丁寧に仕事をするとともに、自分に合った営業スタイルを確立する必要があります。
7 説明を顧客に合わせて臨機応変に対応する
既存顧客からの紹介は新規顧客を獲得するための重要なチャネルです。丁寧に仕事をこなして顧客に満足してもらうこと、顧客と意思や気持ちを通じることが重要です。多くの顧客は法律の素人です。顧客の理解度に合わせて適切に説明することができれば、仕事の内容とともに気持ちも伝わります。仕事ぶりに満足したお客様が紹介者となって次のお客様を連れてきてくれることにもつながります。
8 独立する時期は慎重に
司法書士事務所を開業するタイミングを、資格取得後の修行期間と年齢から考えてみましょう。資格取得後5年以内に独立するケースが多いですが、こうすれば実務能力を確かにしてから開業できます
9 開業した司法書士の平均年収は当てにならない
開業するということは経営者になるということであり、経済社会の荒波に直接さらされます。その結果、開業司法書士の年収は司法書士ごとに大きな開きがあります。開業司法書士の平均年収は600万円前後ですが、開業すれば誰でも600万円前後の収入が得られるわけではありません。開業司法書士の年収は200万円未満から1000万円以上までの広がりがあり、開業しただけでは、どの水準に落ち着くのか分かりません。開業司法書士の年収は経済環境と経営能力で決まるのです。
2 開業する前に準備しておきたいこと
司法書士試験に合格してから、開業するまでには2~5年程度の期間を設けるのが適当です。その期間、司法書士事務所に勤めて実務経験を積むだけではなく、経営者になるための人脈の形成、経営ノウハウの吸収、開業資金の準備に取り組みましょう。
1 実務経験を積む
実務能力があることが開業の大前提です。すべての業務に精通する必要はありませんが基本的な実務はスムーズにこなせないと開業後に顧客に迷惑がかかり、既存顧客の紹介によって新規顧客を獲得する流れができません。
2 幅広いネットワークをつくっておく
経営を成り立たせるには同業者・隣接業者とのネットワークと顧客のネットワークが必要です。司法書士事務所に勤めていれば、同業者のネットワークに入ることができるでしょう。税理士や不動産業者とネットワークを作れば開業後にお互いに仕事を回しあうことができます。
3 できるだけ多くの先輩の体験談を聞く
すでに独立している先輩の話を聞くことは非常に有益です。開業準備にかかるお金や時間、仕事を受注するための営業活動、経営に関連した事務処理などの話を聞くことで、具体的なイメージが湧きます。直接話を聞いた先輩には、開業後に問題に直面した時に相談に乗ってもらうこともできるでしょう。
4 予算以上の資金を貯めておく
基本的な事務所設備と応接スペースがあれば開業できるので、司法書士事務所の開設資金はそれほど大きくありません。自宅で開業するのであれば50万円でも開業できます。オフィスを借りるとしても150万円程度用意すれば開業できるでしょう。しかし開業してしばらくの間、仕事が少なく、収入から生活資金を捻出できないことがよくあります。開業資金とは別に半年分程度の生活資金を用意しておきましょう。
3 スケジュールをしっかり立てる
1 事務所の方向性を決める
「とにかく開業する」というだけでは、事務所の場所や設備、広さなども決まりません。最初に必要になるのは司法書士事務所の経営理念です。経営理念の中で、事務所を経営することで社会に対してどのような貢献を行いたいのかを明確化します。経営理念があれば、さまざまな選択を行う際に軸がぶれにくくなり、一貫した経営を行うことができます。
2 計画書の作成
経営理念をもとに事業計画書を作成します。事業計画書には収支のビジネスモデル、黒字化するまでの資金繰り、開業資金の使途と調達方法などを明記します。各アクションをおこす予定日を明記して以後は計画書のとおり作業を実行し、実行状況に応じて計画を修正します。事業計画書を作成することではじめて事業について具体的に考えることができるようになります。
3 事務所探し
事業計画書にもとづいて事務所探しや設備の調達に入ります。事務所の立地は集客を左右するので重要です。お客様の利便性を中心に考えると同時に、自分や将来の社員の利便性も考慮に入れておきましょう。
4 まとめ
今回の記事では、司法書士の開業についてまとめました。開業するということは経営者になるということです。開業後には、経営者としての仕事と、司法書士の実務の両方をこなすことになります。司法書士の資格を取得したあとの修行期間中に、幅広いネットワークを作っておきたいものです。具体的な開業作業は、必ず事業計画書にもとづいて行いましょう。