売上や収入にはあまりこだわらず、やりがいやワークライフバランスを求めて開業する司法書士も少なくありません。しかし、開業する司法書士が、サラリーマン時代の収入を上回りたいと願うのも当然のことです。司法書士が開業して5年後に売上5,000万円を達成し、一人前の経営者になるために、実行するべきことについて解説します。
1 開業を成功させるためのマインドセット
開業は複雑なプロセスです。開業後にはいろいろなことが起こるので、個別的なテクニックの前に、さまざまな事態に対応できるメンタルを整える必要があります。開業して成功するためのマインドセットをご紹介します。
1 ポジティブ思考で行動する
経営とは試行錯誤の連続であり、試行錯誤を繰り返すためには大きなエネルギーが必要です。たとえば不動産会社に対する営業に成功し、そこから顧客を紹介してもらえるようになれば、長期的な売上を確保したことになります。しかし、1つの不動産会社に対して成功した営業の陰には、数多くの失敗した営業があります。大口の営業は成功する確率が低いことをはじめから頭に入れて活動すれば、ポジティブ思考でエネルギッシュに行動し続けることができます。
2 営業にお金をかける―節約一辺倒から脱却する
開業当初は売上がほとんどなく、お金が出ていくばかりなので、できるだけ経費を削減したくなるのは当然です。しかし、そこに注意が向きすぎて営業経費まで削るのは問題です。営業は将来の売上の元手です。Webサイト、Web広告、パンフレット、DMなど営業経費の使い道はたくさんあります。月にいくら営業にお金を使うことで、どれだけの案件を受注したいのかを計画して営業に取り組みましょう。
3 自分への投資が一番ハイリターン
成功する司法書士は、実務に関する知識、業界のトレンド、新たな人脈などを求めて常に活動しています。さまざまなセミナー、会合、書籍など、自分を高める機会やリソースはたくさんあります。将来の売上をもっとも増加させる投資先は自分自身です。ただし、忙しく活動していれば良いというわけではありません。事業についてじっくりと考える時間を取ることも重要です。
2 開業後に実行するべき営業戦略
開業後には経営者として、司法書士の実務以外の業務にも取り組むことになります。その中でも営業が、開業の成否にもっとも大きな影響を及ぼします。開業後に実行するべき営業戦略をご紹介します。
1 営業の基本は信頼関係
誰であれ、よく知らない人から高い商品を買うときには強い抵抗感を覚えます。説明を聞いて確かに自分に役に立つとは思うものの、騙されているかもしれないという不信感はなくなりません。このハードルを乗り越えるために必要なのが信頼関係です。
2 司法書士の受注経路の特殊性を理解して営業する
司法書士の受注経路には特殊性があります。登記は司法書士の独占業務ですが、登記を必要とする顧客は直接司法書士事務所を訪れることは少なく、他の業者や士業からの紹介を受けて事務所に来ます。登記の仕事を増やすためには、このことをよく理解して営業に取り組む必要があります。
①不動産登記を受注するための営業
不動産登記の仕事は司法書士の独占業務です。厳密には弁護士も不動産登記の代理業務を行えるのですが、実質的には司法書士が独占していると考えてよいでしょう。不動産登記は本人が行う以外、必ず司法書士の手を経る必要があります。しかし、一般の顧客が不動産登記のために司法書士事務所を訪れることはほとんどありません。一般の顧客は不動産会社を売買するときに、不動産会社に紹介されて司法書士事務所を訪れます。不動産登記の仕事を増やすためには不動産会社や、住宅売買・賃貸に関わる金融機関に対して営業する必要があります。
②士業仲間との連携が重要
会社登記も司法書士の独占業務です。会社登記を考えると士業仲間との連携の重要性が分かります。起業した社長は、税務のために税理士事務所と契約します。そのとき、会社設立のためには法人登記が必要になります。そのために、登記を独占業務とする司法書士の手を借りる必要があることを説明され、司法書士事務所を訪れます。会社登記の仕事を増やすためには、税理士事務所に対して営業する必要があります。
不動産会社、金融機関、関連士業、いずれに対しても、単に仕事をもらうだけになってしまうと、下請けの、弱い立場に陥ります。それを避けるためには、自分からも相手に顧客を紹介できる体制を整えなければなりません。
3 独占業務とコンサルティングを合わせる
不動産登記にしろ、会社登記にしろ、基本的には正確に仕事をこなすだけなので、業務の質だけで差別化したり強みを作ったりするのは困難です。単価を下げる競争に入れば、合理化が進んだ大手司法書士法人に勝つのは難しいでしょう。このようなジレンマに対して、会社経営について勉強して、法律や税金の観点、経営の観点から適切な会社設立形態を指南するなど、コンサルティングを同時に行うことが有効です。コンサルティングで強みを作ることができれば単価を上げられます。
4 ホームページを活用する
これから開業する司法書士は、必ずホームページを活用するべきです。一般の顧客は、ホームページがないと不安に感じて他の事務所に変えてしまうかもしれません。ホームページに事務所の場所や業務内容、料金などを記載しておくだけでも顧客は安心します。しかし、ホームページを外注すると高くつく場合もあるので注意が必要です。多少の勉強は必要ですがWordPress、WIXなど、ホームページを作成するサービスを利用すれば、自力でホームページを開設できます。
5 すぐに実行できる効率的な営業方法
すぐにできて効率的な営業方法として、勉強会を使った営業と、DMの有効な活用方法をご紹介します。
① 勉強会営業で多数の営業マンにコンタクト
勉強会を開催すれば、多くの営業マンにコンタクトすることができます。不動産会社に対して訪問営業すれば、1人の営業マンとじっくりと話ができるかもしれません。そこで勉強会を開催すれば、一度に多数の営業マンと知り合うことができます。勉強会を継続すれば、次第に信頼関係が作られていきます。
② 地域の関係者に100通のDMを送る
DMは昔からある営業手段ですが、うまく活用すれば今でも有効です。地域の不動産業者、金融機関、一般の会社、税理士、弁護士など100人を選んでDMを送るのは、安価で有効な営業方法です。DMを送った後に訪問営業をするほうが、いきなり飛び込み営業するよりもずっと効果的です。
3 開業後5年で売上5,000万円を目指す
せっかく開業したのですから、できればサラリーマンのときより高収入を目指したいものです。事業を順調に伸ばし、自分が経営に専念できるようになるために、開業してから5年目までに何をするべきかを説明します。また、短期間で士業法人を作り上げた事例についてもご紹介します。
1 1年目の課題は経営を黒字化すること―足でコツコツ営業する
司法書士であれ、他の事業であれ、開業1年目は勝負の年です。強力なコネがあったり、既存の事務所を引き継いだりして、はじめから顧客をつかんでいない場合、開業して数か月間は売上がほとんどないこともよくあります。開業当初は、こまめに金融機関、不動産業者、税理士事務所などを回りながら地道に仕事を増やしていきます。開業1年後に月の売上100万円に乗せることを目指しましょう。
2 ~5年目は人を雇い、パートナーを育成する
司法書士事務所を継続できる見込みが立ったら、売上の拡大に取り組みます。開業5年目で売上3,000万~5,000万円を目指したいところです。仕事量が拡大すれば、一人ではこなせなくなるので、補助者を増やしていきます。司法書士1人と補助者3人で売上5,000万円を達成できれば理想的です。この時期には、自分が経営に専念できるように、パートナーの育成にも取り組みます。
3 ある大型士業法人の例
開業から約3年で総勢60人の従業員が在籍する士業事務所に成長したある法人の例をご紹介します。この法人は、後発であり、不動産会社や金融機関との取引はそれほど多くはありませんでした。そこで、会社登記とM&Aに注力して、その領域を強みとしました。また、自らもM&Aを活用して拠点を増やしました。優秀な人材に来てもらえさえすれば、仕事はあとから発生するという考えにより積極的な採用活動を行い、福利厚生や代表とのミーティング、昇給制度により定着率を上げたことが、急成長につながりました。
4 まとめ
司法書士が開業して5年後に売上5,000万円を達成できれば、成功したと考えてもよいでしょう。このような高い目標を実現するためには、ポジティブ思考で試行錯誤を続けるマインドセットが必要です。司法書士事務所の成功のカギは営業にあります。司法書士の仕事の特性をよく理解して営業に取り組みましょう。開業初年度で事務所を継続できる見込みを立てたら、様々な営業を試しながら、開業5年目には自分が経営に専念できるような体制を構築することを目指しましょう。