事務所を経営している司法書士の中には、兼業によって仕事の幅を広げたいと考える方もいらっしゃるでしょう。また、これから司法書士として独立しようと考えている方の中には、「会社員と司法書士を両立できないだろうか」などと考える方もいらっしゃるかもしれません。今回は、司法書士の兼業について、法律的・物理的な観点から解説します。
1 司法書士が兼業を行うメリット・デメリット
司法書士が兼業するメリットには、仕事の幅を広げてシナジー効果を狙えることや、収入を安定させやすくなることがあります。デメリットとしては、どちらの仕事も中途半端になってしまう可能性があることが挙げられます。
1 兼業によるメリット
第一に、兼業によって仕事の幅を広げることができます。司法書士の仕事は、登記などの書類作成に関わるものが多くあります。書類の作成が司法書士単独で行われることは少なく、顧客が求める仕事の一部を司法書士が分担するのが一般的です。たとえば、司法書士が宅地建物取引士を兼業すれば、不動産を購入する顧客に対してワンストップサービスの利便性を提供でき、結果として仕事の幅を広げることができます。
また、兼業することで収入が安定しやすくなります。どのような仕事であれ、需要には変動があるものです。仕事の種類が一つしかないと、需要の変動の影響を直接的に受けてしまいます。仕事の種類を増やしておけば、一つの仕事の需要が減ったときには、別の仕事で収入を確保することができます。
2 兼業によるデメリット
兼業は、時間面、体力面でマイナスになることもあります。実際に二つの仕事をしてみると、どちらも中途半端になることはよくあるものです。司法書士は片手間でできる仕事ではないので、司法書士として仕事がうまくいっているのであれば、あえて兼業する必要はないかもしれません。
2 司法書士は兼業が難しい資格?
前述の通り、司法書士が兼業することにはいくつかのメリットがあります。しかし、司法書士が他の仕事を兼業することは簡単ではありません。この根拠は、司法書士法にあります。司法書士法を素直に解釈する限り、現状では会社員の兼業や副業として営業することは難しいと言えるでしょう。以下では、司法書士法の兼業に関連する規定を確認してから、どのような兼業なら可能なのかを考えていきます。
1 兼業と司法書士法
司法書士法の兼業にかかわる規定を見ていきましょう。司法書士法には兼業を直接規制する記述はありません。しかし、「依頼に応ずる義務」と「秘密保持の義務」が司法書士の兼業を規制していると考えられています。
司法書士法による制限規定はない
最初に確認しておきたいことは、司法書士法には兼業を直接的に規制する規定はないということです。実際に、多くの司法書士が行政書士とのダブルライセンスで仕事をしています。それが可能になるのは、司法書士法が兼業を直接禁止していないことによります。
司法書士法の「依頼に応ずる義務」
司法書士法は、第21条で「司法書士は、正当な事由がある場合でなければ依頼(簡裁訴訟代理等関係業務に関するものを除く。)を拒むことができない。」と定めています。これが司法書士の「依頼に応ずる義務」です。「依頼に応ずる義務」は医師法や行政書士法にもありますが、弁護士法にはありません。弁護士と司法書士は同じ法律職ですが、この規定の有無により、両者の兼業の自由度に大きな違いが生じています。
司法書士法の「秘密保持の義務」
司法書士法の第24条には、「司法書士又は司法書士であつた者は、正当な事由がある場合でなければ、業務上取り扱った事件について知ることのできた秘密を他に漏らしてはならない。」という、「秘密保持の義務」の規定があります。この規定も、司法書士の兼業を制限すると考えられています。なお、「秘密保持の義務」については、弁護士法にも同様の規定があります。
2 司法書士が兼業できる範囲
司法書士が兼業できる仕事は、司法書士として、どのような依頼にも応じられる範囲に限られます。兼業によって時間的に強く拘束されると、この条件を満たせなくなります。また、組織からの命令に従う必要性の高い会社員などの場合も、依頼に応ずる義務を果たせなくなると考えられます。
3 会社員と司法書士の兼業は事実上難しい
兼業自体は禁止されていないものの、「依頼に応ずる義務」を果たせなくなるために、常勤の会社員として働きながら司法書士の業務を兼業することは、事実上難しいと考えられています。同じ理由で、司法書士は地方公務員などの官公庁職員を兼務することもできないと考えられています。官公庁職員の場合は、司法書士としての「秘密保持の義務」と公務員としての守秘義務が重なることも問題とされています。
3 司法書士のダブルライセンス―関連資格との兼業
司法書士の兼業は、司法書士法の「依頼に応ずる義務」に抵触しない範囲に限られます。たとえば、司法書士が作家を兼業することは、作家という仕事の自由度の高さから可能だと考えられます。ここでは、より実現性が高い兼業形態として、ダブルライセンスでの兼業について考えてみましょう。
1 行政書士
もっとも一般的な司法書士の兼業パターンは、行政書士との兼業です。実際にWebで検索してみると、「○○司法書士行政書士事務所」や「司法書士・行政書士○○事務所」といった名前の事務所が多くヒットします。
司法書士が行政書士を兼務するメリットには、試験範囲に重複する部分が多いこと、ワンストップサービスを展開できることがあります。二つの資格試験は重複する部分が多いので、多くの人々がより簡単な行政書士資格を取得してから、司法書士の資格を取得しています。事務所の名前に二つの資格を併記できれば、それだけ顧客の信頼感が高まります。また、併記することにより、司法書士と行政書士の違いがよくわからない顧客からも、積極的に相談を受けることができるでしょう。
2 土地家屋調査士
土地家屋調査士は土地や建物の表示に関する登記に必要な調査、測量、申請手続きなどを行い、土地や建物の管理に関する登記情報を正確に反映していく仕事です。法務局には地図が備えつけられており、土地家屋調査士が正確な測量、調査を行い、全国で地図作成を行ってい、その地図に対して、一筆ごとの形や面積、お隣りとの境界線などを記した地積測量図の作成も行っています。不動産の表示に関する登記の申請が代理でできるので、物理的な申請ができ、権利に関する登記業務を行う司法書士業務と相性がいいと言われます。
3 税理士
代理で確定申告、青色申告の承認申請、税務調査の立会い、税務署の更正・決定に不服がある場合の申立てなどを行い、税務に関する各種申請書や書類の作成を行います。相続の相談でも税に関する業務も相続登記だけでなく相続税や生前贈与かかる贈与税に関する相談を請け負えたり、法律の知識と税務の知識両方でクライアントをサポートできます。司法書士と同様に資格取得では難関と言われ、このダブルライセンスの取得者は少ないとされていますが、相続業務が増えている今日では大変需要の高い資格と言えるでしょう。
4 宅地建物取引士
宅地建物取引士の主な仕事は、不動産会社などが、土地や建物の売買、賃貸物件の斡旋などを行うときに、顧客が知っておくべき重要事項を説明することです。重要事項を説明する宅地建物取引士と、登記を行う司法書士を兼業すれば、顧客の利便性が増し、営業上も非常に有利です。しかし、宅建業の会社を設立して、そこで宅建士と司法書士を兼務するのは、宅建士の専任義務と司法書士の依頼に応ずる義務が両立しないため許されないと考えられています。認可する都道府県にもよりますが、個人事業として宅建業を開業して、同じ事務所内で司法書士を兼業することは可能なようです。
5 ファイナンシャルプランナー
ファイナンシャルプランナーは、相談者が夢や目標を達成するための資金計画を立てることをサポートする仕事です。ファイナンシャルプランナーは、個人的な状況や価値観、ライフイベントや経済環境を考慮してアドバイスしたり、計画の実行を援助したりします。
ファイナンシャルプランナーと司法書士とは、人生の節目を迎えた人々の行動をサポートする点で共通点が多い仕事です。成年後見や相続を考えればわかるように、両方の資格を取って司法書士事務所を経営すれば、顧客に対してよりきめの細かいサービスを提供できるでしょう。
司法書士とファイナンシャルプランナーの兼業は現時点でも少なくありませんが、今後も伸びていくと考えられます。
4 まとめ
今回は、司法書士の兼業について解説しました。司法書士の兼業には多くのメリットがあるものの、司法書士には「依頼に応ずる義務」があるため、実際に可能な兼業形態は限定されています。現状、司法書士の兼業としては、他の資格との相乗効果を狙うダブルライセンスが有望です。
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