多くの人が、「司法書士が英語を習得するメリットはほとんどない」と考えているのではないでしょうか。たしかに、司法書士の従来の働き方では、英語を使う場面はあまりありません。しかし、日本に来る外国人や、日本で活動する外国企業が増える中で、少しずつではあるものの、司法書士が英語を使って仕事をする機会が増えています。そこで今回は、司法書士が英語を習得するメリットについて解説するとともに、英語で対応することが必要な業務にはどのようなものがあるのかをご紹介します。
1 日本でも英語対応が必要な場面は増えてきている
近年、アジアからの外国人が増加傾向にありますが、依然として米国などの英語圏から来る外国人も多く、また、英語には国際公用語としての役割もあります。以下では統計データを元に、英語での対応が必要となる場面が増えていることを確認してみましょう。
1 外国人観光客の増加
2019年に日本を訪れた外国人の人数は、前年比2.2%増の3,188万人でした。近年伸びが鈍化しているものの、全体的な傾向として、訪日外国人数は2011年の622万人から急速に伸びています。世界各地でオーバーツーリズムの現象が報告されていますが 、2024年の訪日外客数は3,477万人と、過去最多だった2019年(3,188万人)を超える水準を予想されています。
2 外国企業の日本進出
2018年末の対日投資残高は、前年末から1.8兆円増の30.7兆円でした。2018年まで5年連続で過去最高を更新しており、初めて30兆円を超えました。そして、対日直接投資残高のGDP比は5.6%です。近年アジアからの直接投資が増加傾向にありますが、残高ベースでは欧州からの投資が約半分、北米からの投資が約2割を占めています。これだけの規模の外国企業が日本で活動しているのです。
3 在留外国人数の増加
2023年末の在留外国人数は、341万992人(前年末比33万5,779人、10.9%増)で、過去最高を更新しました。前年末(307万5,213人)に比べ、33万5,779人(10.9%)増加しました。在留資格でも永住者が多くを占めています。外国人不動産購入の割合も増加しており、2022年には初めて1%を超え、その後も都市部を中心に増加傾向です。
2 司法書士に要求される英語レベル
企業の法務部門などで働く場合、要求される英語力は企業によってまちまちです。基本的な傾向としては、英語力だけが高いことよりも、法律の知識や実務経験が重視される求人が目立ちます。
海外案件を強みとする司法書士法人・弁護士法人の求人でも、同じ傾向が見られます。TOEIC700点以上、800点以上、ネイティブレベルの英語力、などと明記する求人もありますが、多くの求人が英語力よりも実務経験を要求しています。
3 司法書士が英語対応を行えるメリット
司法書士事務所を経営する立場でからすると、英語スキルがあれば、外国企業の日本進出に関連する登記などの仕事を獲得することができます。また、司法書士の求人に限らず、英語スキルを要求する求人は給与が高くなる傾向があります。以下で詳しく解説します。
1 国際案件を受注できる
英語とともに、外国のビジネスや制度に対する知識や調査能力を蓄積することで、外国企業の日本進出などの国際案件の受注につながります。外国企業の日本進出が盛んな都市部を中心として、外国企業の事業進出を専門的にサポートする司法書士事務所がいくつかあります。そのような事務所は、単に顧客の幅を外国人にまで広げることを目指しているわけではありません。登記以外の周辺業務についても幅広く対応することで、いわば、外国企業の日本進出案件を専門的に担当する司法書士事務所として、差別化を図っているのです。
2 収入増加が見込める
一般的な司法書士事務所で働くのであれば、英語が必要になることはまずないでしょう。しかし、企業の法務部門で法律の知識を活かして働こうとする場合、応募条件に一定以上の英語力が要求される場合が多くあります。一般企業で働く場合、英語ができる人とできない人の年収差はおよそ200万円であるとの調査結果もあります。
外国案件を強みとする司法書士法人・弁護士法人に応募するためには、英語力が必要です。そのような法人の求人は、一般的な司法書士求人より高めの月給(30~50万円程度)を提示する傾向にあります。
4 英語対応が要求される司法書士の業務
通常の司法書士の業務であっても、相手が外国人であれば、日本語よりも英語が必要となることがあります。日本で経済活動をする外国企業のための登記やビザ、法務文書などに関する業務や、家族の中に外国に帰化した日本人がいる場合の相続に関する業務などでも、英語対応が要求されることがあるでしょう。その場合、外国の法律や社会の仕組みについて、英語で調査する力が必要となります。英語対応が可能な司法書士であれば、こうした業務分野へも少ない負荷で進出することができるでしょう。
1 渉外登記
渉外登記とは、手続きや取引に外国籍の方が入っている登記です。外国籍の方が日本の不動産を取得する場合の土地建物登記や、日本で会社を起こす場合の会社登記などがこれに当たります。また、外国籍の方が日本にある土地や建物などの財産を相続する際の登記手続きも渉外登記です。
日本における外国人人口の増加や、外国企業の日本進出の増大によって、渉外登記は増加しています。渉外登記には外資系企業や外国人に特有の論点や注意点があり、高い専門性が必要です。
2 法務文書翻訳
中小企業などでは、日本語の資料は社内で作成し、英訳は翻訳会社に依頼することが多くあります。法律にかかわる文書の翻訳を外注する場合、法律専門の翻訳会社は高くつき、一般的な翻訳会社の翻訳では意味が通らないことになってしまいがちです。この「隙間」を埋めるために、外資系企業の登記を得意とする司法書士事務所が翻訳を担当することがあります。そのような事務所は司法書士としての法律の知識を活かして、日本語での起案から英訳文書まで一貫して文書を作成することが可能です。対象となる文書は、株主総会や取締役会に関連するものや、会社法で規定された社内文書などさまざまです。
3 在留資格取得
日本に在留する外国籍の方にとって、在留資格(ビザ)は非常に重要なものです。ビザを取るための手続きや条件がわからない方のために英語で相談を受けることがあります。
外国籍の方が日本で会社を経営するためには、会社の設立や変更の登記とともに、安定的・継続的な事業経営が可能であることを、入局管理局に認めてもらう必要があります。こうした業務のためには、英語や在留資格に関する知識に加えて、経営に関する知識も必要です。
4 国際相続
国際相続とは、被相続人や相続人が外国籍であったり、外国に居住していたりしている場合の相続です。外国人と結婚したり、家族が海外に移住して帰化したりしていれば、国際相続の対象になりえます。国際相続の場合、準拠法の調査や、相手国による認証が必要な書類の作成などが必要になることがあります。英米に関する国際相続では、英語のスキルとともに、相手国の相続手続きに対する知識も求められます。また、国際結婚の場合、国際遺言を残すことで国際相続の手続きの複雑さがが大幅に軽減されるため、その対応を求められるケースもあります。
5 財産管理
司法書士は、家庭裁判所によって相続財産管理人になったり、遺言によって遺言執行者になったりすることがよくあります。外国籍の財産を管理するためには、日本の法律だけではなく、外国の法律知識も必要です。司法書士が英語のスキルをつければ、財産管理の範囲を外国人や外国に帰化した日本人にまで広げることができるでしょう。
5 まとめ
日本においても外国人観光客や外国企業が増える傾向にあり、英語の重要性が増しています。英語を使った司法書士の業務は、渉外登記、法律文書の翻訳、在留資格の取得など、さまざまなものがあります。会社の法務部であれ、弁護士法人や司法書士法人であれ、英語力があればより高い収入を得やすくなるでしょう。
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